【弁理士試験】知的財産法の目的と保護対象を六法で対照【特・実・意・商・著・不競】

法目的と保護対象の四法対照 四法対照

✅ この記事の結論
目的条文の差は、暗記すべき文言の差ではなく「何を保護している法律か」の差です。特・実・意は「保護及び利用を図る」→産業の発達。商標法だけ「商標を保護することにより」で始まり、守っているのは商標そのものではなく業務上の信用。だから商標法には「創作」の語がなく、代わりに「あわせて需要者の利益を保護する」が付きます。着地点は特実意商=産業の発達/著作権法=文化の発展/不競法=国民経済の健全な発展。この3つの着地点を先に押さえると、保護対象の定義も自然に整理できます。

四法対照シリーズ
  1. 法目的と保護対象
  2. 拒絶理由
  3. 無効理由
  4. 補正の時期的・実体的要件
  5. 存続期間・更新

弁理士試験の勉強を始めて最初に読むのが各法の1条、いわゆる目的条文です。ところが「一度読んだだけで、あとは放置」になりやすい条文でもあります。私自身、2026年の短答では商標5点・著作権法/不競法3点という結果でした。この法目的と保護対象の切り分けでした。

「目的条文は出ないから後回し」とよく言われます。ところが特許庁が公表している令和3年度〜令和7年度の短答式試験を数えてみると、目的・保護対象を正面から問う問題が3回出ています。しかも3回とも商標の第1問です。私が5点しか取れなかった科目の、1問目がここでした。

そしてそれ以上に重要なのが、個別条文の意味が目的条文から導き出せることです。なぜ商標に新規性の要件がないのか。なぜ商標だけ不使用で取り消されるのか。なぜ意匠には「創作非容易性」があるのか。答えは全部1条にあります。

この記事では、産業財産権四法(特許・実用新案・意匠・商標)に著作権法・不正競争防止法を加えた六法を、目的条文と保護対象の2軸で対照します。制度趣旨は青本(工業所有権法逐条解説)の記述に基づいて四法それぞれを確認し、演習には特許庁公表の過去問を使います(解説は当サイトの独自作成です)。

この記事の内容

  1. 六法の目的条文(原文)
  2. 目的条文は3層構造で読む(手段→中間目的→最終目的)
  3. 青本で読む四法の1条(特・実・意・商)
  4. 創作法と標識法という分け方
  5. 保護対象の定義を六法で並べる
  6. 四法対照表(目的・保護対象・着地点)
  7. 法目的が条文解釈に使われた例(判例)
  8. 令和3〜7年の短答で目的条文はどう出たか
  9. 短答で問われ方が決まっている7つのポイント
  10. ひっかけパターンと私の失点
  11. 過去問演習(令和7年・令和4年・令和3年の商標第1問)
  12. 論文フレーム・法改正メモ・一問一答12問

1. 六法の目的条文(原文)

まず原文を並べます。声に出して6本続けて読むと、差がある場所が耳で分かります。差は驚くほど少数の語に集中しています。

特許法第1条(目的)この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

実用新案法第1条(目的)この法律は、物品の形状、構造又は組合せに係る考案の保護及び利用を図ることにより、その考案を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

意匠法第1条(目的)この法律は、意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

商標法第1条(目的)この法律は、商標を保護することにより商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。

著作権法第1条(目的)この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

不正競争防止法第1条(目的)この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じもって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

素読のときの小ネタ。特・実・意・商・著の5本は「もつて」、不正競争防止法だけ「もって」です。前者は昭和34年・昭和45年制定の古い表記、不競法は平成5年に全部改正された新しい法律なので現代表記になっています。試験の正誤には影響しませんが、条文を書き写すときにここで手が止まると「自分は原文を見ている」という感覚が身につきます。

📌 3行でわかる要点
① 「保護及び利用を図る」は特・実・意だけ。商標法は「商標を保護することにより」。
② 「創作」の語が目的条文にあるのは意匠法だけ(特・実は「発明/考案を奨励し」)。
③ 着地点は3種類。産業の発達(特実意商)/文化の発展(著)/国民経済の健全な発展(不競)。

2. 目的条文は「3層構造」で読む

六法の目的条文は、どれも同じ骨格でできています。丸暗記より、この骨格に当てはめる方が速く、しかも忘れません。

  • 手段(何をするのか)
    特・実・意「保護及び利用を図る」/商「商標を保護する」/著「権利を定め、保護を図る」/不競「措置等を講じる」
  • 中間目的(それによって直接何が起きるのか)
    特「発明を奨励」/実「その考案を奨励」/意「意匠の創作を奨励」/商「業務上の信用の維持」/不競「事業者間の公正な競争の確保」
  • 最終目的(社会にとっての着地点)
    産業の発達(特実意商)/文化の発展(著)/国民経済の健全な発展(不競)

短答で崩されるのは、ほぼ第2層(中間目的)です。「意匠を奨励し」と「意匠の創作を奨励し」、「発明の創作を奨励し」と「発明を奨励し」。第1層と第3層は差が大きいので気づきますが、第2層は一文字単位の差なので目が滑ります。

3. 制度趣旨を青本で確認する(特・実・意・商)

ここからは青本(工業所有権法逐条解説)が1条をどう説明しているかを、四法それぞれについて見ます。目的条文の記事は「特許法1条の趣旨」で終わっているものが多いのですが、四法を並べて読むと差の理由まで分かるので、少し長めに説明します。

特許法1条 — すべての条文が帰ってくる場所

【青本の要旨】特許法1条1条は特許法の目的、ひいては特許制度そのものの目的を示した規定である、と説明されています。そして他の条文はすべて本条の目的に「帰一してくる」ものであり、各条文の解釈にあたっても1条の趣旨が参照されるべきことは言うまでもない、と述べられています。

制度の仕組みについては、新しい技術を公開した者に対し、その代償として一定の期間・一定の条件のもとで特許権という独占的な権利を付与し、他方で第三者にはその公開された発明を利用する機会を与える(存続期間中は権利者の許諾を得ることにより、存続期間の経過後は全く自由に)ものだ、と整理されています。そのうえで、権利を付与された者と、権利の制約を受ける第三者の利用との間に調和を求めつつ技術の進歩を図ることが、産業の発達への寄与にほかならない、と結ばれます。

出典:特許庁編『工業所有権法逐条解説』特許法第1条の項。引用ではなく要旨を筆者がまとめたもの。

【かみ砕くと】特許法の「保護及び利用」は、セットで1つの取引条件です。公開した見返りに独占をもらう(保護)。その代わり技術は世に出て、他人が読めるし、期間が過ぎたら誰でも使える(利用)。公開の代償として独占を与える制度なので、目的条文にも「利用」が必要になります。

青本が使う「帰一」という語は、そのまま学習方針として読めます。条文の意味が分からなくなったら1条に戻る、という読み方が制度側から想定されている、ということです。

実用新案法1条 — なぜ「物品の形状、構造又は組合せ」に絞ったのか

【青本の要旨】実用新案法1条実用新案法1条は特許法の目的とほとんど同じであるが、保護対象である考案について「物品の形状、構造又は組合せに係る」という限定が置かれている点で特許法と異なる、とされます。したがって方法の考案は実用新案制度では保護されません

興味深いのはその理由です。技術的思想である考案を保護するという見地を徹底すればこの限定はやや問題があるが、実用新案制度の長年の運用によって実用新案の観念が一般に形成されているので、その事実を尊重し、対象をみだりに広げることを避けた——と説明されています。理論よりも制度運用の実態を優先した限定だ、ということです。

また、特許法は技術的思想の創作のうち「高度のもの」を発明と定義するのに対し、実用新案法にはそのような定義がなく、物品の形状・構造・組合せに係る考案であれば程度のいかんを問わず独占権を付与するものとされています。

出典:同上・実用新案法第1条の項。要旨。〈形状〉=外部から観察できる物品の外形、〈構造〉=物品の機械的構造(化学構造は含まない)、〈組合せ〉=単独の物品を組み合わせて使用価値を生じさせたもの(ボルトとナット等)という字句解釈も付されています。

【短答でどう効くか】「構造」に化学構造が含まれないという一点だけで、化学物質の考案が実用新案の対象外だと即答できます。目的条文の限定は、実3条1項の登録要件にそのまま連動しています。

意匠法1条 — 同じ「創作」でも切り口が違う

【青本の要旨】意匠法1条意匠の創作は、特許法の発明・実用新案法の考案と同じく抽象的なものである。しかし発明や考案は自然法則を利用した技術的思想の創作であり、特許法・実用新案法はその側面から保護するのに対し、意匠法は2条1項の表現からも明らかなように美感の面からアイデアを把握して保護しようとする——つまり両者は保護の方法が異なる、と説明されています。

意匠と産業の発達の関係についても、①優れた意匠を商品に応用することで需要が増加し産業の興隆が実現される場合、②優れた意匠が同時に技術的にも優れており、技術の進歩ひいては産業の発達が意匠そのものによって直接実現される場合、という2つの態様が挙げられています。

出典:同上・意匠法第1条の項。要旨。

【かみ砕くと】特許・実用新案・意匠は同じ創作法ですが、同じ物を違う面から切っているだけです。ある製品の「機能の仕組み」を切れば特許・実用新案、「見た目の美感」を切れば意匠。だから1つの製品に特許と意匠が同時に成立し得ます。この「切り口が違うだけ」という感覚は、四法対照の全体を通じて効いてきます。

商標法1条 — 不正競争防止法との差は「行政処分を媒介するか」

ここがこの記事で一番読んでほしい部分です。商標法1条の青本には、商標法と不正競争防止法の関係がはっきり書かれています。

【青本の要旨】商標法1条商標を使用する者は、商品や役務の提供に係る物品等に一定の商標を継続的に使用することによって業務上の信用を獲得する。この信用は有形の財産と同様に経済的価値を有する。全く同様の質を有する商品・役務が、使用される商標の違いによって市場価格を異にすることは通常みられる現象である、と説明されます。

そこで事業者は、不正な競業者が紛らわしい商標を使用して混同を生じさせる行為を排除しようとする。この不正な行為に対する法規として不正競争防止法と商標法が存在する。商標を使用する者の業務上の信用を維持するという目的は両法に共通するが、商標法は「商標権を設定する」という国家の行政処分を媒介している点が不正競争防止法と異なる。1条の「商標を保護することにより」はこの趣旨を表している、とされています。

さらに、商標を保護することは「一定の商標を使用した商品・役務は必ず一定の出所から提供される」という状態を確保することになる。需要者の側から見て、以前に満足した商標の商品が別の出所のものだったのでは利益を害することになる。したがってこの取引秩序を維持することが、需要者の利益の保護であると同時に、産業の発達にも貢献する——1条の後段はこう繋がっています。

出典:同上・商標法第1条の項。要旨。なお、平成3年改正でサービスマーク(役務商標)登録制度が導入され、保護を受ける商標は商品に係る商標と役務に係る商標の双方になった旨も同項に記されています。

📝 この1行を持ち帰ってください
商標法と不競法は「守るもの」は同じ(業務上の信用)。違うのは「国家の行政処分=商標権の設定登録を媒介するかどうか」。
この整理があると、①商標登録がなくても不競法2条1項1号で戦えるのはなぜか、②逆に不競法では周知性の立証が必要なのに商標法では不要なのはなぜか、が同時に説明できます。商標法は登録という手続を先払いする代わりに、周知性の立証を免除してもらう制度だと言い換えられます。

【4本まとめて読むと見えること】差の正体は、「公開の代償」という発想がある法律と、ない法律があることです。特・実・意は技術や創作を世に出させたい。だから出願を公開させ、期間限定の独占を与え、期間が切れたら公有にする。一方で商標は、公開させたい情報ではありません。商標に必要なのは誰の商品か分かる状態を維持することです。だから商標法1条には「利用」がなく、代わりに更新登録によって半永久的に維持でき(商19条2項)、使っていなければ取り消される(商50条)という、他の三法とまったく違う制度設計になります。

4. 創作法と標識法 — この線引きが全部を決める

目的条文の差を一言で言い換えると、創作法か標識法かです。試験対策としては、この2グループの線を引けるかどうかがそのまま得点に出ます。

創作法(特許法・実用新案法・意匠法・著作権法)は、人が生み出したものを保護します。だから「新しいか」「容易に思いつかないか」が問題になります。特29条1項・2項の新規性・進歩性、意3条1項・2項の新規性・創作非容易性、著作物における創作性の要件は、すべて「創作を保護する」という目的から来ています。

標識法(商標法・不正競争防止法の一部)は、創作を保護しません。守っているのはその標識に蓄積された信用と、需要者が出所を取り違えないという状態です。だから商標法には新規性の要件そのものが存在しません。他人が先に同じ商標を使っていたかどうかは新規性の問題ではなく、出所の混同のおそれの問題として4条1項各号で処理されます。

📝 ここが繋がると強い
商標法が「創作」を保護しないと理解できていれば、次の3つの理解が深まります。
商3条2項:本来は識別力のない商標でも、使用によって信用が蓄積すれば登録できる(=守っているのは信用だから)
商50条:使っていない商標は取り消される(=信用が蓄積していないから守る理由がない)
商19条2項:更新登録により期間を延ばせる(=信用は時間が経つほど厚くなるので、公有に戻す必要がない)

不正競争防止法はさらに一段違います。不競法は権利を付与しません。目的条文が「措置等を講じ」となっているとおり、一定の行為を不正競争と定めて差止めや損害賠償の手当てをする行為規制型の法律です。「不正競争防止法上の権利」という言い方が正確でないのは、ここに理由があります。

5. 保護対象の定義を六法で並べる

目的条文が「何のために」なら、定義条文は「何を」です。ここも原文の差が試験の差になります。

特許法第2条第1項(発明)この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。

実用新案法第2条第1項(考案)この法律で「考案」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作をいう。

発明と考案の定義の差は「高度のもの」の6文字だけです。ただし実用新案の保護対象は、これに加えて物品の形状、構造又は組合せに係るものに限られます(実1条・実3条1項)。方法の考案は実用新案では保護されません。この限定が目的条文の中にも書き込まれているのは実用新案法だけで、六法の中では特徴的な構造です。

意匠は令和元年改正で対象が大きく広がりました。

意匠法第2条第1項(意匠・抜粋)この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。(略))であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。
※カッコ書きの一部を「(略)」として省略しています。

商標の定義は、他の五法とまったく発想が違います。

商標法第2条第1項(商標・抜粋)この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)

ここが重要です。商標の定義は「標章」+「業としての使用」の2階建てになっています。文字や図形そのもの(=標章)は、まだ商標ではありません。事業者が商品や役務について使うことで初めて商標になります。使用が定義に組み込まれているのは六法の中で商標だけで、これが不使用取消審判(商50条)の根拠になります。

もう1つ、商標2条1項で必ず押さえるのが「人の知覚によつて認識することができるもののうち」の後に続く列挙です。文字・図形・記号・立体的形状・色彩・これらの結合・音・その他政令で定めるもの。ここは限定列挙なので、列挙になく政令でも定められていないものは商標になりません。

審査基準で確認できること(商標の保護対象)においは「人の知覚によつて認識することができるもの」ではありますが、2条1項の列挙にも、現在の政令にも入っていません。したがってにおい商標は登録できません。「知覚で認識できるから登録できる場合がある」という肢は、列挙部分を読み飛ばさせる典型的な作りです。
店舗の内装は立体商標として登録できます。商標審査基準には、照明器具・カウンター・椅子の座面などを含む店舗の内部の構成を表示した立体商標が、立体商標として認められる例として挙げられています(商標の詳細な説明で内部構成を表示した立体商標である旨を明らかにした場合)。外観と内装の双方を含む構成も、1つの立体商標として特定されていれば認められます。
・ただし立体的形状が商品等の機能又は美感に資する目的で採用されたものと認められる場合は、原則として商品等の形状そのものの範囲を出ないと判断され、3条1項3号の問題になります(救済は3条2項)。

出典:特許庁「商標審査基準〔改訂第15版〕」(令和2年4月1日適用)第1・第3条第1項柱書および第3号の項。特許庁ウェブサイト(2026年9月5日利用)。※適用中の版は特許庁サイトで確認してください。

著作物は、産業財産権とは別の座標にあります。

著作権法第2条第1項第1号(著作物)著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

「自然法則を利用した技術的思想」(特許)と「思想又は感情の創作的表現」(著作物)は、守備範囲がきれいに分かれています。アイデアは特許、表現は著作権という切り分けです。また著作権は無方式主義(著17条2項)で、創作と同時に発生します。出願・登録が権利発生要件である産業財産権四法とは、ここが根本的に違います。

不正競争防止法には「保護対象の定義」に当たる条文がありません。あるのは不正競争の定義(不競2条1項各号)です。周知表示混同惹起、著名表示冒用、形態模倣、営業秘密の不正取得・使用、限定提供データ、ドメイン名の不正取得などが列挙されています。守られるのは「対象物」ではなく「公正な競争の状態」だと理解すると、六法の中での位置づけが定まります。

6. 四法対照表(+著作権法・不競法)

ここまでを1枚に落とします。最終行の「ひとこと」だけ覚えれば、あとは復元できます。

※表は横にスクロールできます

観点特許実用新案意匠商標
目的条文特1実1意1商1
手段保護及び利用保護及び利用保護及び利用保護のみ(「利用」なし)
中間目的発明を奨励その考案を奨励意匠の創作を奨励業務上の信用の維持
最終目的産業の発達産業の発達産業の発達産業の発達
需要者の利益
保護対象発明(特2①)考案(実2①)
※物品の形状等に限定
意匠(意2①)
物品・建築物・画像
商標(商2①)
標章+業としての使用
創作/標識創作法創作法創作法標識法
新規性の要件あり(特29①)あり(実3①)あり(意3①)なし(概念自体がない)
ひとこと公開の代償として独占特許の簡易版。対象が物品限定創作法だが着地は産業守っているのは商標ではなく信用

著作権法と不正競争防止法を足すと、こうなります。

※表は横にスクロールできます

観点産業財産権四法著作権法不正競争防止法
最終目的産業の発達文化の発展国民経済の健全な発展
保護対象発明・考案・意匠・商標著作物・実演等(著2①i等)定義なし(不正競争を列挙)
権利の性質登録により発生する独占権創作と同時に発生(無方式主義・著17②)権利付与ではなく行為規制
目的条文の特徴語「保護及び利用」「公正な利用に留意しつつ」「国際約束の的確な実施」
ひとこと公開・登録と引き換えの独占保護と利用のバランスが条文に明記権利ではなく行為を規制する

著作権法1条の「公正な利用に留意しつつ」は見落としやすい一節です。産業財産権四法が「保護及び利用」と並列で書くのに対し、著作権法は利用への配慮を留保の形で書いています。著作権法30条以下の権利制限規定が正当化される根拠が、この一節です。

7. 法目的が条文解釈に使われた例

「目的条文なんて実務で使わない」と思われがちですが、実際には裁判所が結論を導く根拠として使います。有名なのが次の判例です。

キルビー特許事件(半導体装置事件)最判平成12年4月11日・平成10年(オ)第364号特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止めや損害賠償の請求は、特別の事情がない限り権利の濫用にあたり許されない、と判断されました。当時は特許の有効性を争う手続が無効審判に一元化されていたため、明らかに無効な特許でも侵害訴訟では有効として扱わざるを得ないという不整合があり、最高裁は紛争解決の実効性という観点からこれを是正しました。

【試験でどう使われるか】この判決を受けて平成16年改正で特104条の3が新設され、侵害訴訟における無効の抗弁が明文化されました。短答では「判例→立法」の流れとして、論文では権利濫用や利益衡量を論じる際の足場として登場します。法目的や制度趣旨から結論を導く思考そのものが、論文で求められる型です。

商標法でも同じことが起きます。商標法1条の「あわせて需要者の利益を保護する」は、単なる飾りではありません。4条1項15号(混同のおそれ)や16号(品質誤認)といった、他人の権利ではなく需要者の側を見ている規定を支える根拠になります。「私益的規定か公益的規定か」を4条1項各号で切り分ける作業は、1条の二本立て構造の反映です。

8. 目的条文は短答でどう出たか(令和3〜7年の実績)

「目的条文はほとんど出ない」と言われがちですが、意外と出ていました。特許庁が公表している令和3年度〜令和7年度の短答式試験問題(全5年・計300問)を、法目的・保護対象・定義を正面から問うている問題という基準で数えると、次のようになります。

※表は横にスクロールできます

年度科目・問番号問題の柱書問い方
令和3年商標 第1問商標の保護対象等に関し(イ)〜(ホ)の個数問題
令和4年商標 第1問商標法1条・51条1項の穴埋め①〜⑫の語句組合せ
令和5年該当なし
令和6年該当なし
令和7年商標 第1問商標法の目的等に関し(イ)〜(ホ)の個数問題
ひとこと5年間で3回。すべて「商標の第1問」。特実・意匠・条約では正面からの出題なし。

この偏りには理由があります。特許法・実用新案法・意匠法の1条は制度趣旨の説明としては使われても、単独の正誤判断の材料になりにくいです。「発明を奨励し」か「発明の創作を奨励し」かを問う肢は、他の論点と組み合わせにくいからです。

これに対し商標法1条は、そのまま個別条文の可否判断の問題にできます。実際、令和7年の商標第1問は「商標法は業務上の信用の維持を図ることを目的とするが、だから〇〇である」という形で、1条から3条1項柱書・24条の2・13条の2・64条・51条へ枝を伸ばしてきました。目的条文を出発点にして各制度の存在理由を問う、という作り方です。

📌 ここから導かれる対策
① 特実意の1条は文言を正確に(出るとすれば文言のすり替え)。
② 商標法1条は文言+他制度への接続まで。「信用を守る法律だから、この制度がある/ない」を言えるようにする。
③ 商標の第1問は1条か2条から始まる可能性が高い。ここを落とすと最初から1点減った状態で走ることになります。

集計は特許庁ウェブサイトで公表されている各年度の短答式筆記試験問題集にあたって行いました(2026年9月5日利用)。出題実績は年度によって当然変わるので、最新年度が公表されたらこの表を更新します

9. 短答のポイント7つ(問われ方で覚える)

① 「保護及び利用」があるのはどの法域か

特・実・意にあり、商標にはありません。商標法は「商標を保護することにより」で始まります。この一点だけで肢が切れる問題があります。

② 「創作」の語があるのはどこか

目的条文に「創作」があるのは意匠法だけ(「意匠の創作を奨励し」)。特許法・実用新案法は「発明を奨励し」「その考案を奨励し」です。

ただし定義条文(特2①・実2①)には「創作」の定義があるので、「特許法に創作は定義されていない」という肢は誤りです。目的条文の話か定義条文の話かを読み分けてください。

③ 最終目的の着地点は3種類

産業の発達(特・実・意・商)/文化の発展(著)/国民経済の健全な発展(不競)。「文化の発展」と「文化の向上」、「国民経済の健全な発展」と「国民生活の安定」のすり替えが定番です。

④ 商標法1条だけ目的が二本立て

「産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」。「商標法の目的は業務上の信用の維持のみである」という肢は誤りになります。

⑤ 実用新案法1条だけ保護対象の限定が入っている

「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」。目的条文の中で対象を絞っているのは実用新案法だけです。方法の考案は保護されません。

⑥ 発明と考案の文言差は「高度のもの」だけ

特2条1項と実2条1項を並べて比べると、差は「高度のもの」の有無だけです。ここに「産業上利用することができる」を混ぜてくる肢に注意してください。それは定義ではなく特29条1項柱書・実3条1項柱書の要件です。

⑦ 不競法は権利を付与しない

「措置等を講じ」という書き方が示すとおり、行為規制型です。また目的条文に「国際約束の的確な実施を確保するため」が入っているのも不競法だけの特徴で、これはパリ条約等への対応が制度の出発点だったことの反映です。

10. ひっかけパターン

⚠️ 目的条文で崩されるのはこの6か所 ・「意匠法は意匠を奨励し」→ ✕。正しくは「意匠の創作を奨励し」
・「特許法は発明の創作を奨励し」→ ✕。正しくは「発明を奨励し」
・「商標法は商標の保護及び利用を図ることにより」→ ✕。「利用」はない
・「著作権法は産業の発達に寄与」→ ✕。文化の発展
・「不競法は国民生活の安定に寄与」→ ✕。国民経済の健全な発展
・「実用新案法1条に保護対象の限定はない」→ ✕。「物品の形状、構造又は組合せに係る」がある

⚠️ 私はここで間違えました2025年(令和7年)の短答は商標5点・著作権法/不競法3点でした。その商標の第1問が、まさにこの記事のテーマである「商標法の目的等」です(本記事の過去問演習・問1)。

振り返って原因ははっきりしています。商標の肢を読むときに創作法の発想を引きずったまま読んでいたことです。「信用を守る法律なんだから、信用の源である事業と切り離して商標権だけ譲るのはおかしいだろう」——(ロ)の肢は、この感覚だけで判断できてしまいます。趣旨から演繹して、条文を引かずに答えを出す。これが5点の正体でした。

趣旨は肢を切るための道具ですが、趣旨だけで切れる肢は、たいてい出題者が用意した罠です。1条から導き出した結論が浮かんだら、そこで一度止まって条文番号を思い出す。この記事を書いた目的の半分は、自分にその癖をつけることにあります。

11. 過去問演習(令和7年・令和4年・令和3年)

ここからは実際に出題された過去問で確認します。前節で見たとおり、目的と保護対象を正面から問う問題は商標の第1問に集中しているので、令和7年・令和4年・令和3年の商標第1問を並べました。問題文は特許庁ウェブサイトで公表されているものをそのまま掲載し、解説は当サイトが独自に作成しています。

先に問題文だけ読んで自分で答えを出してから、アコーディオンを開いてください。

問1(令和7年 商標 第1問)商標法の目的等に関し、正しいものはいくつあるか
令和7年度 弁理士試験 短答式筆記試験 商標 第1問/出典:特許庁ウェブサイト(2026年9月5日利用)

【問題】商標法の目的等に関し、次の(イ)~(ホ)のうち、正しいものは、いくつあるか。
ただし、マドリッド協定の議定書に基づく特例は考慮しないものとする。

(イ) 商標法は商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図ることを目的とするが、業務上の信用は一定の商標を商品等に継続的に使用することによって商標に化体するものであるから、商標登録出願に係る商標の使用を査定時までに開始していない者は商標登録を受けることはできない。

(ロ) 商標法は商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図ることを目的とすることから、商標権は、商標を使用する者が行っている商標に係る事業と分離して譲渡することができる場合はない。

(ハ) 商標法は、商標登録出願から商標権の設定登録までの間に商標に化体した業務上の信用を保護する制度を設けている。

(ニ) 商標法は商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図るだけでなく需要者の利益を保護することも目的としていることから、出所の混同が広い範囲で生じ得る著名な登録商標について防護標章登録をすることにより、当該登録商標と類似しない商標の使用にまで商標権の効力を及ぼす制度を設けている。

(ホ) 商標法は需要者の利益を保護することも目的としていることから、商標権者が故意に品質を劣悪にした指定商品に係る商品について登録商標を使用している場合、取消しの審判により商標登録が取り消されるときがある。

1 1つ 2 2つ 3 3つ 4 4つ 5 5つ

【解答】1(正しいのは(ハ)のみ)

(イ) ✕ 根拠は商3条1項柱書。「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とあるだけで、査定時までに使用を開始していることは要求されていません。審査基準も「使用をする」には将来使用する意思を有している場合を含むとしています。
なぜ間違えるのか:前半の「信用は継続使用によって化体する」が正しいので、そのまま後半まで正しいと感じてしまいます。前半が青本の記述どおり正しく、後半だけ誤っている——この作りは令和7年の商標第1問で繰り返し使われています。

(ロ) ✕ 商標権は事業と分離して移転できます。さらに商24条の2第1項は、指定商品・指定役務が2以上あるときは指定商品等ごとに分割して移転できると定めています。
なぜ間違えるのか:「信用を守る法律だから、信用の源である事業と切り離せないはずだ」と趣旨から演繹してしまうためです。実際には、分離移転を認めたうえで混同が生じた場合を商52条の2(不正使用取消審判)で事後的に処理する、という設計になっています。趣旨から結論を出す前に、条文を確認する癖をつけてください。

(ハ) ○ 商13条の2(設定の登録前の金銭的請求権)です。出願公開(商12条の2)後に警告をしておけば、出願から設定登録までの間の使用について、業務上の損失に相当する額の金銭の支払を請求できます。まさに「出願から登録までの間に化体した信用」を保護する制度です。

(ニ) ✕ 防護標章登録(商64条)で登録できるのは、その登録商標と同一の標章です。広がるのは商品・役務の範囲(非類似の商品・役務まで)であって、標章の範囲ではありません
なぜ間違えるのか:「広い範囲に効力を及ぼす制度」という総論が合っているので、広がる方向を確認しないまま○にしてしまいます。商標の軸と、商品・役務の軸を分けて読むと防げます。

(ホ) ✕ 商51条1項が対象とするのは、①指定商品・指定役務についての登録商標に類似する商標の使用、または②指定商品・指定役務に類似する商品・役務についての登録商標もしくはこれに類似する商標の使用です。指定商品について登録商標そのものを使う行為は、条文上そもそも対象外。品質を劣悪にしたことだけを理由に商標登録が取り消される規定は、商標法にありません。

【関連して押さえる】この1問だけで、商3条1項柱書・商13条の2・商24条の2・商51条・商52条の2・商64条に触れられます。1条から各制度に枝を伸ばすという出題スタイルの見本のような問題なので、正解できた人も枝ごとに条文を引き直す価値があります。

問2(令和4年 商標 第1問)商標法1条・51条1項の穴埋め
令和4年度 弁理士試験 短答式筆記試験 商標 第1問/出典:特許庁ウェブサイト(2026年9月5日利用)

【問題】次の①~⑫の番号が付された空欄に適切な語句を入れると、商標法に関する文章になる。①~⑫の空欄に語句を入れたとき、空欄番号と語句の組み合わせとして最も適切なものは、どれか。
なお、①~⑫の空欄には、同じ語句を2回以上入れてもよい。
ただし、マドリッド協定の議定書に基づく特例は考慮しないものとする。

商標法第1条は、「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の ① の維持を図り、もつて ② に寄与し、あわせて ③ を保護することを目的とする。」と規定している。商標を使用する者は商品や役務の提供に係る物品等に一定の商標を継続的に使用することによって ④ を獲得するが、この信用は有形の財産と同様に経済的価値を有する。このため、商標法は商標権を設定することにより商標を保護している。

一方、商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止する必要がある。

そこで、商標法第51条第1項は、「 ⑤ が ⑥ に指定商品若しくは指定役務についての ⑦ の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての ⑧ の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の ⑨ 又は他人の業務に係る商品若しくは役務と ⑩ を生ずるものをしたときは、 ⑪ 、その商標登録を ⑫ ことについて審判を請求することができる。」と規定している。

1 ①業務上の信用 ⑥故意 ⑫取り消す
2 ②産業の発達 ⑦登録商標に類似する商標 ⑩誤認
3 ③需要者 ⑥故意 ⑦登録商標に類似する商標
4 ④業務上の信用 ⑧登録商標に類似する商標 ⑪利害関係人に限り
5 ⑤専用使用権者又は通常使用権者 ⑨混同 ⑫取り消す

【解答】1

【埋まる語句】①業務上の信用/②産業の発達/③需要者の利益/④業務上の信用/⑤商標権者/⑥故意/⑦登録商標に類似する商標/⑧登録商標若しくはこれに類似する商標/⑨誤認/⑩混同/⑪何人も/⑫取り消す

【各枝の判定】
選択肢1……①②⑫すべて正しい。これが正解です。
選択肢2……②産業の発達○、⑦登録商標に類似する商標○ですが、⑩は「混同」(⑨が「誤認」)。品質は誤認、他人の業務に係る商品・役務とは混同——この対応がひっくり返っています。
選択肢3……⑥⑦は正しいものの、③は「需要者」ではなく「需要者の利益」。1条は需要者そのものではなく需要者の利益を保護すると書いています。
選択肢4……⑧は「登録商標若しくはこれに類似する商標」。類似商品・役務については登録商標そのものの使用も対象に入ります。また⑪は「何人も」で、利害関係人に限られません。
選択肢5……⑤は「商標権者」。使用権者の不正使用は51条ではなく商53条です。⑨も「誤認」。

【なぜ間違えるのか】51条1項は、「同一商品×類似商標」と「類似商品×同一・類似商標」という2つの組合せを並べた条文です。指定商品について登録商標そのものを使う行為だけが外れている、という構造を図で描いておかないと、⑦と⑧のどちらに「若しくはこれに類似する」が入るかで迷います。

【関連して押さえる】①〜④の穴は、そのまま1条の暗記チェックになります。特に③「需要者の利益」⑪「何人も」は、単独でも肢になり得る箇所です。51条と53条(使用権者の不正使用)、52条の2(移転による混同)の3本は、主体で引き分けて覚えてください。

問3(令和3年 商標 第1問)商標の保護対象等に関し、正しいものはいくつあるか
令和3年度 弁理士試験 短答式筆記試験 商標 第1問/出典:特許庁ウェブサイト(2026年9月5日利用)

【問題】商標の保護対象等に関し、次の(イ)~(ホ)のうち、正しいものは、いくつあるか。
ただし、マドリッド協定の議定書に基づく特例は考慮しないものとする。

(イ) 店舗の外観については、立体商標として登録することができるが、店舗の内装については、立体商標として登録することができる場合はない。

(ロ) 指定商品との関係で識別力を有しない立体的形状と識別力を有する文字からなる平面標章との結合により構成される商標は、立体商標として登録することができる場合がある。

(ハ) 商標法第2条第1項には、「この法律で『商標』とは、人の知覚によつて認識することができるもの」と規定されているので、嗅覚で認識できる独創的な「におい」について、商標として登録することができる場合がある。

(ニ) 「小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」の役務(小売等役務)に類似するものの範囲には、その小売等役務において販売される商品と類似する商品が含まれる場合はない。

(ホ) 自己の製造した商品を販売する製造小売業者が使用する商標であっても、小売等役務に係る商標として商標登録することができる場合がある。

1 1つ 2 2つ 3 3つ 4 4つ 5 なし

【解答】2(正しいのは(ロ)と(ホ))

(イ) ✕ 店舗の内装も立体商標として登録できます。商標審査基準には、照明器具・カウンター・椅子の座面などを含む店舗の内部の構成を表示した立体商標が、立体商標として認められる例として挙げられています。外観と内装の双方を含む構成も、1つの立体商標として特定されていれば認められます。

(ロ) ○ 立体的形状そのものに識別力がなくても、識別力のある文字等と結合し、その文字等が出所表示として使用されていると認識できる場合には、商標全体として3条1項各号に該当しないと判断されます(商標審査基準)。飲料のボトル形状にロゴが入っている例をイメージすると分かりやすいはずです。

(ハ) ✕ 商2条1項は「人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」と続きます。「のうち」以下が限定列挙であり、においは列挙にも政令にも入っていません。
なぜ間違えるのか:肢が引用しているのは条文の前半だけで、しかも引用自体は正確です。正確な引用のあとに、条文が続いていることを忘れさせる作りになっています。条文を引いた肢ほど、その先を確認してください。

(ニ) ✕ 商2条6項は、商品に類似するものの範囲には役務が含まれることがあり、役務に類似するものの範囲には商品が含まれることがある、と定めています。小売等役務とその取扱商品が類似すると判断される場面は実際にあります。

(ホ) ○ いわゆる製造小売であっても、商品の販売に伴う顧客に対する便益の提供が認められれば小売等役務に該当し得ます。「場合がある」という問い方なので、例外的な場面を1つ想定できれば○です。

【関連して押さえる】保護対象の広がりは平成8年(立体商標)→平成26年(色彩のみ・音・動き・ホログラム・位置)という改正の流れで押さえます。一方で商標法1条は制定時から変わっていません。目的は動かさず、保護対象だけを広げてきたという関係が、この問題の背景にあります。

📝 3問を解いて見えること
3問とも、前半に正しい趣旨を置いて、後半で制度の内容をずらすという同じ作り方をしています。趣旨の部分に「そうだよね」と頷いた瞬間に、後半の検証が甘くなる。対策はひとつで、肢を「趣旨の部分」と「結論の部分」に切って、結論だけを条文で確かめることです。趣旨は正しくても結論が誤り、という肢が出題者の主戦場になっています。

12. 論文での使い方(答案フレーム2パターン)

パターン1:法目的が主論点になる場合【問題文の型】「商標法において、使用されていない登録商標が取り消される制度が設けられている理由を、商標法の目的に照らして説明せよ」

【答案の骨】
趣旨:商標法1条は、商標を保護することにより商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図ることを目的とする。保護の対象は商標という標識それ自体ではなく、その使用によって蓄積された業務上の信用である。
帰結:使用されていない商標には信用が蓄積せず、保護すべき実体がない。他方で登録が残ると、他人の商標選択の自由を不当に制約する。
あてはめ:そこで商標法は継続して3年以上の不使用を取消事由とし(商50条1項)、被請求人に使用の証明責任を負わせている(同条2項)。
結論:不使用取消審判は、信用の保護という1条の目的から必然的に導かれる制度である。

【落としやすい一言】「商標を保護することにより」と書き、「保護及び利用」と書かないこと。趣旨から書き出す答案でここを間違えると、以降の論述の説得力が一気に落ちます。

パターン2:法目的が脇役として絡む場合【問題文の型】条文の文言だけでは結論が出ない事案(権利の効力範囲、利益衡量、明文のない場面の処理)。

【答案の骨】
① まず条文の文言から出発する(ここを飛ばして趣旨に走らない)。
② 文言では決まらない部分を特定する。
「特許法は発明の保護及び利用を図り、産業の発達に寄与することを目的とする(特1条)。したがって、権利者の保護と第三者の利用との調和が求められる」と橋を架ける。
④ 調和という観点から具体的な線引きを示し、結論を出す。

【落としやすい一言】趣旨を書くだけで満足してあてはめに戻らないのが典型的な失点です。趣旨は結論を導くための道具であって、結論そのものではありません。1条を引いたら必ず「したがって本件では」に戻ってください。

13. 法改正メモ

改正メモ商標法1条は昭和34年の現行法制定以来、改正されていません。「あわせて需要者の利益を保護する」も制定時からの文言です。一方で保護対象(商2条)は改正が続いており、平成3年にサービスマーク(役務商標)、平成8年に立体商標、平成26年に色彩のみ・音などが加わりました。目的は動かさず、保護対象を広げてきた——これが商標法の改正史の形です。

改正メモ令和5年改正(令和6年4月1日施行)では、商標法にコンセント制度(商4条4項)が導入され、他人の氏名を含む商標の登録要件(商4条1項8号)も緩和されました。いずれも1条の文言は動いていません。「需要者の利益を害するおそれがないなら登録を認めてよい」という改正の発想自体が、1条後段から出てきていると読めます。

改正メモ意匠法は令和元年改正で保護対象に建築物・画像が加わりました(意2条1項)。一方で1条の目的条文は変わっていません。「保護対象は広がったが目的は同じ」という関係を押さえてください。

改正メモ不正競争防止法は令和5年改正(令和6年4月1日施行)で、デジタル空間における形態模倣行為等が不正競争の類型に加えられました。ここも1条は変わっていません。行為規制型の法律は、目的を動かさずに規制類型を足していく形で改正されます。

14. 関連条文マップ

この記事から先に読むと理解が繋がる条文です(グレーは未公開)。

  • 特29条1項
  • 特2条1項(発明の定義)
  • 実2条1項・実3条1項
  • 意2条1項・意3条2項
  • 商2条1項(商標の定義)
  • 商3条2項(使用による識別力)
  • 商13条の2(登録前の金銭的請求権)
  • 商24条の2(分割移転)
  • 商50条(不使用取消)
  • 商51条・53条(不正使用取消)
  • 商64条(防護標章登録)
  • 著2条1項1号・著17条2項
  • 不競2条1項

15. 一問一答(12問)

特許法1条は「発明の保護及び利用を図ることにより」と規定している。 そのとおりです。特・実・意は「保護及び利用」で共通します。
商標法1条は「商標の保護及び利用を図ることにより」と規定している。 「商標を保護することにより」です。商標法に「利用」はありません。
意匠法1条は「意匠の創作を奨励し」と規定している。 目的条文に「創作」があるのは意匠法だけです。
著作権法1条は「産業の発達に寄与すること」を目的として掲げている。 「文化の発展に寄与すること」です。
不正競争防止法1条は「国民経済の健全な発展に寄与すること」を目的として掲げている。 あわせて「国際約束の的確な実施を確保するため」も目的条文に入っています。
商標法1条は、需要者の利益の保護についても規定している。 「あわせて需要者の利益を保護する」。昭和34年の制定時からある文言で、1条はその後改正されていません。
実用新案法1条は、保護対象を物品の形状、構造又は組合せに係る考案に限定している。 目的条文の中に対象の限定が書かれているのは実用新案法だけです。
実用新案法上の「考案」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。 「高度のもの」は特許法2条1項の「発明」の定義です。考案には「高度のもの」がありません。
著作権法上、著作権は文化庁への登録によって発生する。 無方式主義であり、創作と同時に発生します(著17条2項)。登録は権利発生要件ではありません。
不正競争防止法は、営業秘密について排他的な権利を付与する規定を置いている。 不競法は権利を付与せず、一定の行為を不正競争として規制する構造です(1条「措置等を講じ」)。
商標法と不正競争防止法は、いずれも商標を使用する者の業務上の信用の維持を目的とする点で共通する。 青本もそう説明しています。違いは、商標法が商標権の設定という国家の行政処分を媒介する点です。
商標登録出願から設定登録までの間に商標に化体した信用を保護する制度は、商標法には存在しない。 商13条の2(設定の登録前の金銭的請求権)があります。令和7年 商標第1問(ハ)で問われました。
1分まとめ 「保護及び利用」は特・実・意。商標は「商標を保護することにより」で「利用」なし。「創作」が目的条文にあるのは意匠だけ。着地点は産業の発達(特実意商)/文化の発展(著)/国民経済の健全な発展(不競)。商標だけ「あわせて需要者の利益を保護する」が付く(制定時からの文言。1条は改正なし)。実用新案は1条の中に「物品の形状、構造又は組合せに係る」の限定があり、考案は程度のいかんを問わない。意匠は同じ創作でも美感の面から把握する。発明と考案の定義差は「高度のもの」だけ。商標が守るのは商標ではなく業務上の信用。だから新規性の要件はなく、不使用で取り消され、更新で維持できる。商標法と不競法は目的が共通で、違いは行政処分(商標権の設定)を媒介するかどうか。不競法は権利を付与せず行為を規制する。

まとめ

✅ この記事の要点
・目的条文は「手段→中間目的→最終目的」の3層で読む。崩されるのは中間目的
・特・実・意は創作法で「保護及び利用」。公開の代償として独占を与える構造
・商標法は標識法。守るのは商標ではなく業務上の信用だから、新規性の概念がなく、不使用で取り消され、更新で維持できる
・着地点は産業の発達/文化の発展/国民経済の健全な発展の3種類
・著作権法は無方式主義、不競法は権利を付与しない行為規制型。四法と同じ枠で考えないこと
・商標法と不競法は守るもの(業務上の信用)が同じで、違うのは国家の行政処分を媒介するかどうか(青本・商1条)
・令和3〜7年で目的・保護対象が正面から出たのは3回、すべて商標の第1問

目的条文は、覚える対象ではなく他の条文を思い出すための索引です。ただし3問を並べて分かったとおり、索引から演繹しただけで肢を切ると落とします。趣旨で当たりをつけ、条文で確かめる。この2段構えができるようになることが、1条を学ぶ本当の目的だと思っています。私の商標5点の原因も、結局そこでした。

四法対照シリーズでは次回以降、拒絶理由・無効理由・補正・存続期間を同じ形式で対照していきます。

この記事の学習に使った教材

目的条文と保護対象の対照は、四法対照法文集を1冊持っているかどうかで学習効率が変わります。四法の同じ条文が横に並んで印刷されているので、この記事でやったような比較を自分の手でできます。目的条文と定義条文だけでも、開いて眺める価値があります。

条文の背景まで踏み込むなら青本(工業所有権法逐条解説)です。この記事の第3節はすべて青本の1条の項に基づいて書きました。とくに商標法1条の項にある「不正競争防止法との違いは、商標権の設定という国家の行政処分を媒介する点」という整理は、受験界でよく見る説明よりも射程が広く、そのまま論文の書き出しに使えます。

お、青本は特許庁のサイトからダウンロードできるのでそれを用いることも、購入することもできます。

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日付更新内容
2026-09-04初版公開
2026-09-05v2に改訂。①青本の記述に基づき実用新案法・意匠法・商標法の1条の趣旨を追加②商標法1条が「平成8年改正で追加」とした記述を訂正(1条は昭和34年の制定以来改正なし)③令和3〜7年の出題実績の節を新設④練習問題を令和7年・令和4年・令和3年の商標第1問(特許庁公表)に差し替え⑤商標審査基準に基づく保護対象の解説を追加⑥一問一答を12問に増補

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